2012-01-29

マストロヤンニとアルファロメオ

ソフィア・ローレンという女優がたいしたものであることは、わざわざ言うまでもないことなのですが・・・

そのソフィア・ローレンが名コンビとも言えるマストロヤンニと愛人、というか夫婦というか、まあそんなものを演じているのが『あゝ結婚』、30年ぶりで見て面白かった。以下、プロットを書くわけではないけれど、一応「ネタばれ」注意で、万一まだ見ていない方はご注意を。

映画が公開されたのは1964年。冒頭、タイトルバックに使われているナポリの街角にはジアコーサの名作フィアット600があふれ、それだけで既にちょっと嬉しい。ファミリーカーは戦後世代になっているけれど、タクシーはまだまだ戦前型が基本のランチアが走り回っていて、映画の冒頭、病気で倒れたソフィア・ローレン、じゃなかったフィルメーナ・マルトゥラーノがタクシーから降ろされローマ法王みたいに椅子で運ばれるシーンがあるけれど、そこに出てきたのもそんな古めかしいタクシー。
1940年頃からの23年間が舞台とあって、このほかにも魅力的な車が結構出てくるが、マストロヤンニ演じる遊び人のドメニコ・ソリアーノが乗っているのもイタリアの各世代のスポーツカーだ。
最初は1935~36年あたりのランチアのアウグスタ。戦前の良き時代のこの車は、後にドメニコの使用人にしてフィルメーナの執事役、フィルメーナに求婚して「無理!」みたいに断られてもなかなか諦められないアルフレートが「お古」をもらって乗っている、という意地悪な設定で再登場。
次は、戦争が終わり、再会した二人が競馬場に行くシークエンス、初めて人前に連れていってもらえると思い込んではしゃぐフィルメーナ、しかし実は競馬場は休日、というほろ苦いシーンに出てくるのは、戦後間もない1947年(48年かも)のアルファ6C2500。中身は戦前だが、オラツィオ・サッタが大いに近代化したシャーシにピニン・ファリーナの5座キャブリオレ。ソフィア・ローレン本人みたいにゴージャスなボディーの一台は、身請けされ新しい家に住み、娼婦から愛人に、というフィルメーナの運命とメタフォリカルに照応する。
映画の後半、フィルメーナの一番下の息子がいるガソリンスタンドに修理依頼を装ってドメニコが乗り付けるのもアルファロメオだが(さらにこの後、フィルメーナとの重要なシーンでも道端に停められている)、こちらは映画公開当時まだ新しかった1962年の2600スパイダーでトゥリングの2+2。本当はフィルメーナを捨て若い女と結婚しようとしていたドメニコには、今度はこんな新型車がお似合いだ。ともあれ、どうやらイタリアの伊達男は屋根のちゃんとある車には乗らないらしい。
こんな車の変遷・選択にも、戦時下から戦後へと、時代がよく表現されていて「さすが」で、ドラマの中でメタファーとしての役割を振り当てられているようにさえ見える。いつも思うことだけれど、ヨーロッパやアメリカの映画はこういった車の選び方が実にうまく、面白い。

ところでこんな「映画と自動車」を調べるのには便利でマニアックなサイトがある。http://www.imcdb.orgでみると随分いろんなことがわかり、自分のうろ覚えも確認できて便利です(何の役にも立たないけれど)。大概は自分でわかるものが多いのだけれど、例えばこの映画では、ドメニコの店先のシーンで荷物のあとからフィルメーナまで降りてくるミゼットみたいな(というかそのパクリ元か)小型のバンがピアッジオのape(エイプじゃなくてアペ^^)なんていうことは、こういうデータベースで見ないと見落としがちだ。

映画のことを書くつもりが、すっかり映画の中の自動車のことで終わってしまいそうなのですが、まあ、そういうことなんだな。肝心の映画は、やはりソフィア・ローレンのためのソフィアローレンの映画であることは言うまでもなく、凄い女優をまさに堪能できる逸品だ。若いころにはわからなかったこともいろいろあり、身につまされることや、ほろ苦いこともあり、ともかく50過ぎになったら絶対に見るべき映画だと思う。いや~映画って本当にいいもんですね、さよなら、さよなら、さよなら・・・(まざっとるがな)

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